蜜蜂の生活
M・メーテルリンク (山下知夫,橋本綱訳).1981年.工作舎.291.
法律家を目指していたメーテルリンクは,1889年に詩集や戯曲でデビュー,1908年には童話劇「青い鳥」発表,1911年にはノーベル文学賞を受賞.
日本では「青い鳥」の作者として有名ですが,この世界(どの?)では「蜜蜂の世界(1901年)」,「白蟻の世界(1926)」,「蟻の世界 (1930)」の3部作でも有名です.中でも,時期の早い「蜜蜂の世界」は,メーテルリンクをノーベル賞に導いたといわれる秀作となっています.もちろん 当時の知識で書かれているので,そのまま信じてはいけない部分はありますが,一読の価値があります.
ミツバチの生活を精緻に綴っていて,タイトルからは科学書のように思われることもありますが,ミツバチの生態を解説したあとに,人間に置き換えた 哲学的議論が続く構成となっています.過去の評論では,「ミツバチに彼の思想をシンボリックに代弁させている戯曲」という表現もあります.
目次は次のようになっています(これだけ読んでも読みたくなる?)
1章 巣箱の前に立って~勤勉な蜜蜂たちの、香り高い精神や神秘にふれるために,私たちはその巣をこじ開けねばならなかった2章 分封(巣分れ)~抗しがたい魅惑の時,分封,それは蜜の祭典,種族の未来の勝利,そして犠牲への熱狂である
3章 都市の建設~この街は地表から突き立つ人間の街のようではなく,空から下に降りていく逆円錐形の逆立ちした街だ
4章 若い女王蜂たち~彼女は自分の競争相手の挑戦を耳にするや,自らの運命と女王の義務を知って勇敢に応酬する
5章 結婚飛行~太陽が光きらめくとき,1万匹以上の求婚者の行列から選ばれたたった1匹だけが女王と合体し,同時に死とも合体する
6章 雄蜂殺戮~ある朝,待たれていた合言葉が巣箱中にひろまると,おとなしかった働蜂は裁判官と死刑執行者に変貌する
7章 種の進化~蜜蜂は自分たちが集めた蜜を誰が食べるのか知らない.同様に私たちが宇宙に導き入れる精神の力を誰が利用することになるのか,私たちは知らない
なお文中で使われる「巣の精神Esprit de la ruche」という言葉は,映画「ミツバチのささやき(1972)」の原題”El Espiritu de la Colmena(スペイン語)”にもなっています.映画に登場する,アナの父親はメーテルリンクをモデルとしており,冒頭は蜂場で巣箱をこじ開けるシーン だし,室内に設けられた観察巣箱を見ながらエセーを書く姿は何度か描写され,そこでの文章はこの「蜜蜂の世界」の断片となっていました.
なお日本では,戦時下の1942年(昭和17年)に平野威馬雄の訳で出版されていて,ちょっとそのこと自体に驚かされます. しかも,当時はまだ国際的にも認知が進んでいなかったと思われるミツバチのダンスの図が掲載されていて,メーテルリンクとの関係も,それがフリッシュの研究であることも何もわからないままになっているところが「?」...
古書はこちらへ。
蜜蜂の生活 (1981年)