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ミツバチの世界

2010.01.21 by junbee

桑原万寿太郎.1954. 岩波書店.209 pp.

岩波書店の「少国民のために」シリーズ.「少」は「小」でしょうと思ったけれど,「少年少女」の「少」.

小学校高学年から中学生向けに正しい科学的知識の伝達を目標としたシリーズで,大きめの文字で,平易な日本語を使って書かれた書籍です.桑原先生は動物学では有名な学者で,特に感覚生理などでは先駆的で第一人者です.

はしがきに「わたしはこれから,ミツバチの友情を想像したり,神通力をかってに想像したりすることはやめて,虫なみの能力しか持たぬはずのミツバチになぜあれほどすばらしい生活ができるのかを,静かに順をおって,科学的に追求してみようと思うのである.」とあります.神通力かあ(時代を感じる)....友情は,前段に「ミツバチが友達を助けた美談」を聞いたことがあるでしょうのようなくだりがあります.

物書きとして「静かに」というところが,近頃流行る,煽って売りたい,騒々しい本や物書きとの大きな差を感じさせます.

中身は,ミツバチという生き物を見ていて,「どうやって?」と感じたことを,実際にどんな実験で明らかにしてきたかという説明でたんたんと過ぎていきます(もちろん知的興奮はあります).

むすびに「いつまでたっても,人間の科学はこれで全部わかったとはいえないに違いない.ただ科学が進めば進ほど,いっそう深いところに問題を発見することになるのである.」

フリッシュの「ある生物学者の回想」にもつながります.

続く「こうやって深く自然を知れば知るほど,人間は自然にぶつかって誤りを犯さなくなることはたしかである」は,果たして確かでしょうかね.深く知ることに失敗しているからかも知れませんが,自然から一方的に搾取し,自然を改変する方向に知識を使いすぎたのでは?

ミツバチがなぜこんなに持続可能な生き方を実現しているのか,ミツバチの初学者なら,こうした研究者の疑問へのアプローチを何よりも先に読んで,なるほどと思って,ではこうして解明してみようと考えて欲しい,そんなための一冊です.

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