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ある生物学者の回想

2010.01.18 by junbee

カール・フォン・フリッシュ(著),伊藤知雄(訳)1969年.法政大学出版局.258 pp.

ミツバチのダンス言語を発見したことで,生物学者として,ノーベル賞を受賞したカール・フォン・フリッシュ博士の70歳の時の回想録です.非常に 美しいドイツ語で書かれているということで,ドイツでは教科書などにもよく登場するといわれています.渡辺孝も,著書「ミツバチの文学誌」で紹介し,文学 作品ではないのにあえてこの書籍を加えた理由は,文章の格調の高さがドイツでもよく評価されているからと述べています.残念ながら原文では読めていない し,読めたとしても辞書首っ引きでは格調の高さは私にはわかりませんが.

全編がミツバチの本ではないのですが,ミツバチのダンスを発見したときの興奮は,その短い記述からもよく伝わってきます.ミツバチの研究者が,二 つの戦争(しかも敗戦)を経験して,著名な研究業績とは別に,必ずしも平坦ではなかった人生の中で,見てきたすべてのことがらが,飾らない文章で書かれて いて,非常に好感が持てます(この部分は訳者の業績でもあると思いますが).

最近,アインシュタインが「ミツバチが死に絶えれば人間も4年と保たない」といったとかいわなかったとかで,そのこと自体には否定的な見解が多い ですが(私もその一人です),実は,フリッシュが1949年にアメリカを訪問した際,プリンストン大学での講演の聴衆にアインシュタインがいて,翌日は研 究室を訪問して,楽しい討論をしたという思い出が書かれています.アインシュタインがまったくミツバチなんかに興味がなかっただろうというのは正しい見解 ではなかったようです...

最後の,「科学は絶えず進歩するが,その歩調はゆっくりしている.しかしながら,もし短い時間ですべての真理を解明し尽くすことが可能であるなら ば,科学の不朽の魅力は,どこにも存在しないように思われる」は,私のように仕事の遅い研究者にとって,大変魅力的ないいわけに使われてしまいます が…,とてもよい言葉だと思います.

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