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ミツバチと暮らす四季

2010.01.18 by junbee

ミツバチと暮らす四季

スー・ハベル著(片岡真由美訳).1999年.晶文社, 238pp. 2300円(本体価格)

表紙画像はAmazonのものを借用

手抜きで申し訳ないですが,10年前に,自分で書いた書評(「ミツバチ科学」20巻3号(1999年)に掲載)に若干加筆しました.

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新刊書情報でタイトルを見たとき,これがミツバチの関連書籍かどうかわからず,出版元の晶文社から譲り受けた1冊を手にしても果たしてこの欄で紹介すべきかどうか迷った.そこで読み進めるのと同時に,著者のスー・ハベルについての情報も集めた.
彼女の新作”Waiting for Aphrodite”(メイン州の海岸に移り住んでから書き綴った海の小さな生き物に関するエッセー)の書評は科学雑誌Natureに掲載され,この時初 めてハベルの名前を知った.彼女はミズーリ州オザークで養蜂を営みながらミツバチやガーデニングに関するエッセーをNewYorker誌などに連載して好 評を博してきた.センチメンタルに田舎生活を伝えることで都会生活者の渇いた心を癒そうという試みが成功したというところだろう.本書もアメリカではいわ ゆるヤッピーと呼ばれるような都市住民に人気があり,またインターネット上の書籍販売の大手Amazon.com(アマゾン・コム)に寄せられた読者の書 評も「誰もがこれを読めば蜂を飼いたくなる」と褒めちぎっている(ミツバチ科学の今号の巻頭記事=「地域社会に根ざす“養蜂使節”の育成を-講師と受講者 からみた米国の養蜂講習会-」を寄せていただいたSummers夫妻によれば養蜂家はどちらかというと冷ややかに受けとめているとのこと).
原書のタイトルは”Book of Bees: And How to Keep Them”と,まるでミツバチ飼育法の本だが,残念ながら期待ははずれる.日本の読者にとってはアメリカの養蜂の実態を垣間見るというだけでも興味深い が,実際,内容は読み進むに連れておもしろさを増す.邦題の通り,ミツバチの四季をテーマにしているが,四季を秋から始める奇抜さは,春から夏を最大の盛 り上がりとするミツバチ中心の生活を描く上では心憎い構成だ.そのミツバチの四季の移り変わりに作者自身の対応がリズムをつけ,一連の養蜂作業が登場す る.彼女がミツバチの異変に気づくくだりが随所にあって,それにどう対処したのか,異変への彼女の感覚の動きと,その後の行動を読みとるのはなかなか楽し い.ミツバチを飼うための指南書にはならないが,ミツバチを飼う楽しみが容易に想像できるだろう.
ミツバチへの時にクールで時に熱烈な思い入れや,挿入される詩文には趣味が分かれることだろうし,田舎に移り住んだ中年女性の自意識過剰が気 にさわるかも知れない.また惜しいのはミツバチ関連の用語の翻訳・解釈に難(数多くの文献を引用している割に散見される作者自身の誤解に由来するものもあ る)があること,道具類はそれらしいのに巣の中を描いたイラストはとても満足のいくものではないこと.もっともこうした欠陥はミツバチを扱ったことがあれ ば補って読めるだろうから,ミツバチの四季を味わう妨げにはならない.秋から読み始めるには手軽な一冊である.

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